フルートの選び方 - メーカーによる違い(普及モデル)

普及モデルを作っているブランドのそれぞれの特徴について解説します。

普及モデルフルート選択時のポイント

普及モデルは寿命があります

 普及モデルのフルートはいわば消耗品です。部分的にしろ、洋銀を使っていれば摩耗や変形による劣化は避けられません。貴金属のフルートに比べ、劣化の修復が難しい上に、修理コストとのバランスでは、買い換えた方が経済的な場合が多いですし、メーカーも消耗品と割り切って作っていますので、しっかり練習して使い倒し、上級機種にグレードアップすることをお勧めします。

選ぶときに注意して欲しいこと

 上級機種より遥かに多くのメーカーが普及価格帯のフルートを製作しています。プロ用のフルートを製作しているメーカーもあれば、ほとんどプロ用や上級者用の楽器は作っていないメーカーもあります。更には、普及品だけしか作っていないメーカーもあり、このようなメーカーのフルート製作技術は稚拙で、製品は粗悪な場合があります。ところが、このような製品は非常に安価で売りやすい上に利益も出るので、ネット通販やポリシー・知識のない楽器店が大安売りしています。普及モデルフルートを選ぶには下記を参考にしてください。

  • 信頼のできるフルートの先生または経験者に相談する
  • 学校の吹奏楽備品で使われている機種を参考にする
  • フルート専門店、管楽器専門店で購入する→当社が一番のおすすめ(CM)

フルートの最低ラインの価格を知る

あなたが、これからフルートを楽しみたいのであれば、最低でも
ヤマハのYFL-221、定価(税込) \63,000 (2006.10月現在)
にしてください。巨大メーカーであるヤマハだからできる、この価格でのまともなフルートです。他のメーカーでは、この価格で趣味に耐えうる品質のものを作ることはできません。ですから、この価格以下のフルートは、選ばないのが無難であると明言します。

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安価な中国製のフルートは?

 近年、びっくりするような安価なフルートが市場に出回っています。安いものでは一万円以下でもあります。色々な名前のブランドがありますが、ほとんどが中国製です。
現在(2006年)のところ、使用に耐えうる品質のものはまずありません。製造工場の作業員、流通業者ともフルートのことなど全く知りません。
  楽器が悪くて音が出なくても、初心者は「自分がへたくそだから」と思ってしまいます。そんな心理につけ込んだ商売がまかり通っているのには本当に腹が立ちます。もう一度言いますが、最低でもYFL-221にしてください。

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ヤマハ

 ヤマハは生産量世界一のフルートメーカーです。最低価格のモデルでも、使用上問題になるような点はありません。他のフルート専門メーカーより一桁安い価格から選択できます。ヤマハの普及価格モデルにはスタンダード・モデルとプロフェッショナル・モデルとあります。
プロフェッショナル・シリーズといっても、メーカーでの位置づけは量産モデルであり、プロ用の楽器として作っているわけではありません。

スタンダード・モデル

 ずばり、ヤマハのおすすめはこのシリーズです。卓越した大量生産のノウハウのあるヤマハだからできる低価格モデルです。その中でもYFL-221は一番のおすすめです。もうひとつ上の機種にYFL-211がありますが、Eメカニズムがついているだけです。(Eメカニズムについては「オプションによる違い」をご覧ください)それ以外は全く同じであり、当然同じグレードの音と吹きやすさです。ルックス的には高級感がありませんが、安価に基本性能を求めるのであればこのシリーズが一番です。

プロフェッショナル・モデル

 プロフェッショナルと名のつくアマチュア用フルートですが、こちらはルックス的にはぐっと高級になります。このシリーズに共通のECタイプ頭部管は、大音量が出るというより、コンパクトで上品な音色が出て、コントロールしやすい頭部管です。より柔軟に音のコントロールができる可能性がある設計ですが、実際のユーザー層を考えるとあまり違いは出ないでしょう。
 リペアマンの目で見ると、このシリーズはトーンホールに対してパッドの大きさが小さくて狂いが出やすく、また調整方法も高級モデルでの方法が必要になりますので、スタンダード・モデルより維持コストが多くかかる可能性があります。
 フルート専門メーカーの同じクラスの製品と比べて、特にメリットがあるわけではありません。

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ムラマツ

 日本の、というより世界のトップフルートメーカーのムラマツにも普及モデルのラインナップがあります。工場を見たらわかりますが、金やプラチナのフルートと一緒に、同じライン・技術者・部品で製造しています。素材だけが普及モデルのハンドメイドであり、人件費的に見ればメーカーの言うように赤字モデルでしょう。EXモデル、GXモデルとも初級者にはもったいないぐらいのクオリティーを持ち、コンサートでも十分使用できます。

 非常に豊かな音量があり、ブランド的人気も高いために慢性的な品不足が続いています。
また、 これらのモデルを実際に使用するフルート奏者より、遥かに腕達者な職人たちが製作していることもあり、アマチュアに媚びたようなオプションは一切受け付けてくれません。この数年で非常に多くの改良を加えられ、他社のフルートを大きく引き離したことで、他社のフルートと比べた場合に違和感を感じる方もいます。
このように帝王であるが故にアンチ・ムラマツ派がいることも事実です。

 ムラマツのフルートは 鳴らすポイントがはっきりしているので奏法を会得しやすく、上達を助けてくれるフルートですが、よほど力量のある奏者でないと“ムラマツトーン”以上の音を引き出すことができません。スケール設計は伝統的なタイプに近いので、音程をコントロールする慣れが必要です。(伝統的なスケール設計は悪くいうと「癖がある」と言えますが、慣れることによって「音程に対しての注意力が身につく」ともいえます)
*スケール設計についての解説→<スケール設計について(音程・音色・奏法)>

 このメーカーのフルートを選択する場合に特に気をつけてほしいことは、普及クラスであっても、ハンドメイドと同じくあまりに精緻に製作されているので、使い方が雑だとすぐに故障してしまいます。このことで「最近のムラマツは故障が多い」と思われているようです。
*さらにこの件についての考察→<精密さと安定性のジレンマ>

 ムラマツのフルートはパッドをはじめ非常に精度の高い特殊な部品が多く、工具も特別なものが必要ですので、工場で所定の研修を受けてムラマツフルートの構造を熟知した楽器店・技術者だけに部品を供給をしています。ムラマツフルートは信頼のできるムラマツ公認技術者のいる専門店・楽器店でご購入ください。構造を熟知していない技術者が、一般的なフルートを修理する方法で作業を行うと、深刻なダメージを与え修復できなくなることもあります。公認技術者のいる店に恵まれない場合は、他社のフルートを選択した方が安全です。

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ミヤザワ

 ミヤザワはムラマツから分離独立したメーカーで、ムラマツとは違い合理性と高品質の量産を考えてきたメーカーです。先進的なキーの構造や設計を行い、良い普及モデルを量産できています。しかし、機能に関係のない部分でデザイン・仕上げの簡略化があり、そのことが海外では非常に評価が高いのですが、国内で今ひとつ良い評価を得ていない原因になっているようです。

 ミヤザワの音は十分な音量がありますが、音色はアメリカ好みの非常にあっけらかんとした音色で、ややダークな音色が好みの日本では「薄い、深みがない」といった評価になっています。楽器としての性能は悪くないのですから、日本にあった仕様を考えて欲しいところです。

 吹奏楽では基本性能がしっかりしていますので、備品として最適で、精度もまずまずなので故障もあまりありません。ムラマツと違ってどこでも修理が可能です。
スケール設計は伝統的なタイプなので音程をコントロールすることが必要です。音色を作ることも含めると、どちらかというと内吹きの奏者と相性がよいようです。

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アルタス

 アルタスは新しいメーカーの一つで、社長の田中氏は、ムラマツ、ミヤザワを経て自社を立ち上げました。部品は海外で製作することでコストダウンを図り、音程の良い吹きやすいフルートを製作しています。

 アルタスは、非常にうまいマーケティングコンセプトがあり、ムラマツと対照的にアマチュア好みの「物語のあるフルート」を作っています。素材の選択肢のみならず、管体の製造方法、音色、キーのデザインなど色々な点でこだわりがあります。
特によい点は、スケール設計が現代的で、初心者でも中低音域の音程が正しく平均律的に出しやすく、中音域の音色も素直で明るく感じられ、音のレスポンスも平均しています。
音は、クセがない自然な音で、良くも悪くも奏者の個性が反映しやすい楽器です。音量的にはホールの隅々まで響き渡る大きな音ではなく、優しくこぢんまり鳴るタイプですが、パワーをかけると別の粗い性格の音がだせます。メカニズム的には問題が出ない程度にクリアランスを大きくとって故障しにくいようにしていますが、要所要所は綺麗に仕上げているため精度が高いように見えます。彫りの深いキー・デザインは好みが分かれるところです。

 色々な面でムラマツと対照的なコンセプトの楽器を作り、マーケティングを行っているので、アマチュアクラスのアンチ・ムラマツ派にとても人気があります。

 アルタスに限ったことではありませんが、卸ディーラーとの契約で、お客様との相性に関係なく強烈に薦めている楽器店もありますので要注意です。(パールと違って製品の良さをアピールすることが多い)

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パール

 元々は打楽器のメーカーで、70年代まではボトムラインの安物を作っていましたが、1980年代からは本腰を入れてハンドメイドクラスまでラインナップを拡張しました。現在では普及モデルよりも高級フルートの方が高い評価を得ています。

 アルタスと違ってパールの安価な普及モデルは最終工程まで台湾工場で作られ、台湾製を公表して販売しています。国内工場で製作されたモデルの方が精度が良く、デザイン的にも綺麗ですが、やや高価です。

 普及モデルに関しては、それほど特徴のある製品ではなく、弱い息でも楽に音が出ますが、しっかりと響いた重量感のある音色ではありません。ダイナミクスも小さめですので、大きな音を要求される吹奏楽では辛いところがあります。メカニズム的にはややキーの鍛造が柔らかく、曲がりや狂いが出やすいので丁寧に扱わないといけません。

 このメーカーも、ディーラーとの力関係によって強力に薦めている楽器店がありますが、お客様が見て試奏して判断される方がよいでしょう。(アルタスと違って他社より大きな値引率でアピールすることが多い)

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サンキョウ

 古くにムラマツから分かれたメーカーで、最高に丁寧な普及品を作っています。ムラマツと並ぶ非常に精緻な作りをしていますが、パッドはトラッドタイプなので、クリアランスはムラマツほど小さくなく、その分メカニズムの故障も少ないとても良心的なフルートです。

  ムラマツの太くややダークな音色に正反対の輝かしい細めの音色をしています。また、ムラマツはだれが吹いてもそれなりに鳴りますが、サンキョウは頭部管の鳴らすポイントが薄いため人を選びます。楽器と合う人が使用した場合には、非常に輝かしくスピード感のある音が大音量で響き渡りますが、相性が悪いとモヤモヤとして良い音がしません。また、音色の傾向がアンサンブル、特に弦楽器とはあまり良くなく、どちらかというとソリスト向きのフルートだと言えるでしょう。

 普及モデルから製品は非常によいのですが、技術屋魂が強く商売的には下手です。こう言ったら何ですが、もっと上手く商売をして普及させてほしいところです。

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普及モデルでの当社のおすすめは・・・

 普及モデルにおいては、とにかく安くということならば、どこで買われようともヤマハのYFL-221をおすすめしています。
 当社でのご購入を前提に、ご予算が可能であれば王道のムラマツEXモデルをおすすめします。ムラマツのGXモデルももちろん良い楽器ですが、洋銀が使用されているため、楽器の寿命があることを考えると、もうワンランク上のフルートを視野に入れた方がよいと考えています。
 当社はムラマツの仕入やメンテナンスが自由にできますので、品質のよいムラマツをおすすめしています。

 楽器を選ぶ場合には、金額いくらのフルートといった選び方ではなく、物を選んで予算を合わせることがよいフルート手に入れる鉄則です。