フルートの選び方 - スタイルの違いとは

フルートのスタイルのなかから、カバードキーとリングキートーンホールインラインとオフセットキーシステムについてそれぞれ解説いたします。

カバードキーとリングキー

かつてはカバードキーのことをジャーマンスタイルまたはプラトーシステムと呼び、リングキーをフレンチスタイルと呼んでいました。フランスのプロ奏者の多くがリングを、ドイツの奏者の多くがカバードを使っていたのでそのように呼ばれていたのですが、現在ではドイツでもリングキーを使うプロ奏者が増えてきています。

 最初に断っておきますが、リングキーとカバードキーに音質の優劣があるわけではありません。リングキーとカバードキーの違いを列挙すると

  • リングキーは5つの指穴を正確に塞がないと音が出ませんので、良い指の形を要求され、その副産物として指のテクニックが向上すると言われています。(もちろん個人差はありますが) 
  • リングキーの方がよりレガートがなめらかで美しく、ポルタメントも可能になります。カバードの楽器の場合では音階的なグリッサンドは可能ですが、ポルタメントはほとんど不可能です。逆に、明確なスラーはリングキーの方がカバードキーより難しいと言えます。
  • 半音以下の微分音、尺八のようなバンブートーン(ホロートーンとも言う)もリングキーの方が有利です。
  • リングキーでしかできない特殊な替指があります。
  • 自分に対する聞こえ方は、キーに穴のあいているリングキーの方が直接的であり、これがリングキーの方が明るい音がするという意見の根拠となっているようです。ただし聴衆にはまずわからない程度の違いです。
  • (オマケ)リングキーのフルートを見せた方が、音を出すまではカバードキーのフルートを持っている人より上手いと思われることが多い。

 このように機能的にはリングキーの方に軍配が上がりそうですが、近年はフルートに癒しを求める傾向が強く、音に暖かみがあり、演奏するのが簡単なカバードキーが人気を取り戻しつつあります。上級者でもカバードキーの楽器を購入する方が増えてきました。また、ジャズやポップスではカバードの洋銀フルートの音が好まれる傾向もあります。

 結論として、初級者は演奏容易なカバードキーで良いですが、中級者以上は応用テクニックと表現の可能性からリングキーが好ましいと思います。穴の直径は5ミリ程度ですから、よほど指の細い方以外は問題ありません。もし、リングキーのフルートが非常に難しい楽器だとすれば、もっと大きな穴を直接押さえなければならないクラリネット奏者の人口は、今より大幅に少ないはずです。

 時々、リングキーの穴を塞ぐプラグを入れて演奏している人がいますが、これは絶対にやめてください。リングキーに慣れるまでの一時期ならしかたがありませんが、リングキーのフルートは穴が開いた状態で正常に機能するように作られていますので、プラグを入れると音色や音程が著しく悪くなります。これならカバードキーを使った方がよっぽど良い演奏ができます。

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トーンホール

トーンホールの作り方には管体からトーンホールを形成するドローントーンホールと、トーンホールを管体に取り付けるソルダード・トーンホールとがあります。これは音に対して、かなり大きな影響があります。

ドローン・アンド・ロールド・トーンホール(引き抜き・引き上げ)

 19世紀には管体を変形させてフルートのトーンホールを造るという技術はなかったので、金属フルートはすべてトーンホールをハンダ付で取り付けていました。20世紀になってヘインズ社が引き抜きによる、トーンホールと管体の一体形成法を確立し、“大幅な生産性の向上とハンダの劣化による息漏れの解消を実現した”とされました。グリグリと引き延ばして余った部分を切り取り、パッドが当たる部分をクルッとカールさせます。

 この製法は金属を引き延ばすので、どうしても管体より薄い部分ができてしまいますが、重量を軽くすることができ、何より製造する時間と手間が大幅に省略できます。メーカーによってはこの作業はロボットによる半自動化までできています。普及モデルのフルートはこの製法で作られます。

 引き上げトーンホールのフルートは、トーンホールが軽量で薄く、管体と一体なのでレスポンスが早く明るい響きになります。

ソルダード・トーンホール(ハンダ付)

 引き抜きのトーンホールがすべての面でハンダ付けの製法に勝っていたなら、伝統的なハンダ付けのトーンホール製法は絶滅していたでしょう。しかし、そうならなかったのは、それなりの良さがあるからです。

 この製法はまず管体に管厚より何倍も厚いトーンホール部品をハンダ付けし、取り付けたトーンホールの内側に穴を開けます。
(穴にトーンホールをハンダ付けすると勘違いされている方が多いですが、頭部管のリッププレートも同じく、部品をハンダ付けしたあとに穴を開けます。ガイドのための小さな穴は開けてありますが)

 この工法でトーンホールを形成すると、管体パイプに無理な力が加わりませんので、歪みが生じないし、金属疲労や硬度変化も起こしません。さらに、トーンホールの厚みを自由に設定することができる上、管体と接した部分にアンダーカットを付けて滑らかなアールを付けることも可能です。メーカーによっては融点の高い特殊なハンダを使ったり、金の場合はロー付で立てたりして、その結果、音にも影響を及ぼしています。
 しかし、最大の問題は多くの時間と手間、職人の技術を要します。また、重量も重くなります。ですから高級品(所謂ハンドメイド)のフルートだけで用いられる製法です。

ソルダード・トーンホールのフルートは、一般的に音に厚みと深みが感じられ、しっかりした吹き心地と、自然で落ち着いた響きを得ることができます。最高グレードのフルートはほとんどがこの製法で作られています。

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インラインとオフセット

 キーの並び方にはすべてのキーが一直線に並ぶ“インライン”と左手の薬指だけ少し前に出ている“オフセット”と二通りあります。
  オフセットは、キーが左の指にとって楽な位置にあるので、より自然なフォームになります。また、G♯とAキーのシャフトが独立していますので、キーの動きがスムーズなメリットがあります。しかし、楽器の中央部分にキーポストを2本多く立てないといけないことから、インライン派からは音が暗くなるとかレスポンスが悪いと言った意見もあります。(実際はほとんどありません)それでも、特にリングキーのフルートでインラインが一般的なのは、見た目も機構もシンプルで素直な音が(出そうな気が)するからです。デザイン的にはインラインの方が統一感があって美しく見えます。

  実質的には音への影響は考慮する必要はないでしょう。

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キーシステム

ピンレス仕様

 ピンレス仕様とはほとんどの場合“左手ピンレス”の事です。最近、取り入れるメーカーが増えてきたこのシステムは、左手のAisキー連結を“両端をピンで固定してパイプの中を通す”のではなく、外側に連絡システムを作る仕様のことです。構造はともかく、このシステムは、(左手のフォームが悪くキーに力がかかった場合)3オクターブのF-Fisの動きが阻害されるトラブルを解消するものです。他にも汗によるトラブルが減少しますが、左手のフォームがよい奏者ならこだわるほどのものではありません。

ブロッガー・システム

 ブロッガー・システムは旧来の連絡方法を全面的に見直し、バネ圧の変化やキーの摩擦する部分を減らして非常に滑らかで軽いキーアクションを実現した画期的なシステムです。キートラブルも起こりにくくなっており、キッカー(キーの開きを止める後ろ側の腕)がほとんど無いのでキーの裏側もすっきりしています。もちろん、運指は今までと同じです。
このシステムを取り入れているのはブランネンだけでしたが、昨年からミヤザワもハンドメイドの一部で採用し、欧米では販売しています。(2006/10月現在、日本国内では未発表)
非常に優れたシステムだと言えますが、恩恵にあずかれるのは、ストロビンガーパッドを採用して精密な調整がされたフルートで、キータッチが非常に柔らかな違いのわかる奏者に限られます。キーを強く押さえる奏者にとっては、従来のキーシステムとの違いはほとんどわからないと思います。

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